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Artist Notes

SNSで世界に発信する絵画 – 投稿に秘めた大切なおじいちゃんへの想い

Instagramで連日見応えのある絵画をアップしているアカウントがあることをご存知だろうか。アカウント名は「おじいちゃんの絵画」。そのアカウント名の通り、おじいさんの描いたたくさんの作品を発信するため、お孫さんがSNSを管理しているのだ。世界に向けて作品を発信し続ける、その想いとは。

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家に眠っていたたくさんの絵画たち

壁にかけられた一枚の絵。美しく活けられた花が繊細に描写されている。背景は暗い配色にも関わらず、その植物たちは埋もれることなく浮き出して見える。
この絵画を描いたのは一人の高齢男性。兵庫県芦屋市で40年ほどオートクチュールブティックを営んでいたそうだ。75歳でデザイナー業を引退し、現在は94歳。自分のペースで模写をメインに絵を描き続けている。

「おじいちゃんのお家の玄関やリビングには、額に入れられた自作の絵が飾られています。毎回おじいちゃんのお家に行くたびにその飾られる絵は変わっていて、四季を感じる美術館のように素敵な絵が並べられていました。当初は、特別な感情はなく『素敵だな』と思って見ていました。」

そう語るのは彼のお孫さん。これまで何気なく目にしていたおじいさんの絵画に対する印象をガラリと変えるできごとがあった。

「おじいちゃんは、昨年から施設に入居することになり、おじいちゃんの家を整理する機会が増えました。そこで初めて、今まで何年もかけて描いてきた作品の量と繊細な芸術を目の当たりにしたんです。
この何百もの絵をどうする?とおじいちゃん尋ねても「捨てていいよ。」とのこと。もちろん捨てられるはずはなく、とりあえず写真を撮って自分のInstagramに載せました。そうしたら、想像を超える反響をいただきました。これだ!!世界中のたくさんの人におじいちゃんの絵を見てもらおう!!と思い”おじいちゃんの絵画”というアカウントを作りました。」

そんなひらめきから、2023年4月末に開設したアカウントには、作品がコンスタントに投稿されている。
普段、「そこにあるもの」として特別視していなかったおじいさんの絵画の魅力に気づき、その魅力を多くの人に発信したいという気持ちに駆られたのだった。

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自分にしか出せない「色」が表現された模写の数々

模写をベースにしているため、絵画の中には誰しも一度は目にしたことのある作品も登場する。その筆運びや着色の仕方など細かい部分には、おじいさんのこだわりが垣間見える。
『風神雷神図屏風』の雷神の模写は金箔の質感をも塗りや色の混ざりで表現している。

「基本は、模写ですがただ写し描いた絵ではなく、その作品の画家や風情をしっかり調べてから絵を描いています。絵の具も限られた色しか使っていません。その限られた手に持っている色を混ぜ合わせて作る色は繊細でおじいちゃんにしか出せない色だと私は思っています。世界にたったひとつの作品を作っています。」

作品や作者の背景を深く理解し、一筆一筆丁寧に描くからこそ出せる味わいがどの作品にも表れており、単なる模写とは一線を画す見応えが生まれているように感じる。
その人にしか生み出せない色を調合し、おじいさんの「自分らしさ」がエッセンスとして取り入れられている。
長年デザイナーとして活躍した、おじいさんならではのセンスが光っているのかもしれない。

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一人でも多くの人に「おじいちゃんの絵画」を届けたい

多くの人に見てほしいという気持ちから立ち上げたSNSだが、タグなどの検索から、狙い通りたくさんの人が絵を見に訪れている。

「正直、驚くほどの反響をいただいています。世界中の方からメッセージやコメントを頂戴し、翻訳を使って解読しているほどです…(笑)売って欲しいとおっしゃる方も多いですね。」

おじいさんの絵が持つ魅力に魅了された人は海を飛び越え、海外にもいる。人知れず描き続けていた一人の男性の絵画が、今やSNSを通じて世界中の人の目に触れているのだ。反響の大きさに驚いている投稿者とは反対に、Instagramへの公開に対するおじいさんの反応は薄いようだ。

「93歳になるおじいちゃんにSNSは、理解し難いようです。一応報告はしましたが、そーか!ぐらいのテンションでした(笑)」

一方で、投稿を続けるお孫さんは、「こうやって、記事にしてくださることはもちろん、たくさんの方から”素敵な絵”ですねとコメントをいただけるだけで嬉しいです。」と、Instagramでの公開を通じて出会うこととなった多くの人とのつながりを実感している。
創作活動をしている人に通じることだと思うが、自分の投稿した作品に何かしらの反応があると、やはり嬉しいものだ。
お孫さんの場合は、自分の最大の「推し」と言っても過言ではない、おじいさんの絵を紹介して反応をもらっているのだから、嬉しさも一入だろう。

「10月におじいちゃんのお誕生日があります。誕生日お祝いに小さくても個展のようなものを開きたいと思っています。もちろんおじいちゃんにも参加してもらって、おじいちゃんの作品を見にきてくださる方と直接お話をしてほしいですね。ささやかな、孫からのプレゼントですかね。」

心温まる誕生日プレゼントを計画しているお孫さん。それはきっと素敵な展示になるに違いない。そして、展示に足を運ぶ人からの生の感想をたくさん受け取ってほしい。
まだ実感していない応援の声が本人に届いた時、その言葉ひとつひとつがキラキラと輝く大切なプレゼントとなるだろう。


Profile

SNSネーム:おじいちゃんの絵画

作品ジャンル:主に日本絵画(模写)

SNS:Instagram

経歴

約40年間兵庫県芦屋市でオートクチュールブティックを営んでいた。75歳でデザイナーを引退し、趣味で模写を楽しむ。94歳になった現在も、ゆっくり自分のペースで絵を描くことを楽しんでいる。

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