抽象的な絵画から文字をモチーフにした絵画まで、枠に囚われることなく自分の表現したいものを自由に表現し続ける作家、華山直己。独自の視点から絵画表現を突き詰めたストイックな作品は、日本のみならず海外のアート愛好家たちからも評価を得ている。世界を視野に活動を続ける若手アーティストの想いを聞いた。
ーーー記事は広告下に続きますーーー自由度の高さに魅了され、絵画の世界へ
−絵画の制作を始めた時期は、特殊造型の専門学校を卒業した後と伺っているのですが、立体物の制作を学んだ後に絵画制作を始めようと思ったきっかけを教えてください。
絵画という表現方法と出会ったのが、学生時代にさまざまな挫折が重なり、自分のことが嫌になっていた時期でした。そのタイミングで、ダリや岡本太郎といった抽象絵画やシュルレアリズムと出会い、それまで持っていた絵画に対するイメージが大きく変わりました。自分だけのものが欲しかった当時の僕が、作品に自己を投影し、作品として完成させていくことで、アイデンティティの再構築が目指せる手法と出会えた瞬間です。
−これまで学んできた三次元の表現から、ガラリと表現方法を変える特別な出会いがあったのですね。
はい。自分にとって、三次元の作品よりもイメージを自由に作りやすいと感じたのも絵画の魅力の一つでした。平面的なイメージから強い感動を覚えたことが新鮮だった岡本太郎の作品や、頭の中の創造をわかりやすくそのまま描いているようで面白いと感じたダリの作品に触れることで、自分の中での「絵画の持つ自由さ」が定義づけられていきました。
公募展への初出品で新人賞を受賞した、当時の表現について回想。
−2016年、公募展に4点の作品を出展されて4点とも選出されていますが、こちらの4点はどのようなコンセプトの作品ですか?
コンセプトは全て自画像です。 人物は全く描いていませんが、自分の創作意欲のような感覚をあの手この手で表現しています。
−自分の内面を映し出す鏡のような感覚で制作しているイメージでしょうか?
おそらくそうだと思います。新人賞を取るまではアイデンティティとしての「理想」を描いているつもりでしたが、技術が伴っていなかったために、結果的にその時点での自分を描いていたと今では思います。でも、幸いだったのは、描きたいものだけをストレートに描いていたことです。 模倣や、特定の画風に影響を受けた作風にはなっていないことが、入選作品や入賞作品に共通している部分だと思っています。 それを、いろいろな作品の制作を通じて少しずつ自覚してきた経験が、 新たな作品に取り掛かる時の自信の源として、今も機能しています。
−この4点のうち1点がなんと新人賞を受賞していますが、その時の気持ちを聞かせてください。
率直にまず嬉しかった事は確かです。 ですが、同時に、とても怖くなりました。一緒に展示されていた多くの作家さんたちの作品から感じられたある種の技術力が、自分には全くないことが作品を並べることで際立ったのです。描いていた時は感じていない部分だったのでとても動揺しました。このままの制作プロセスからは、いい作品を作っていくことができないのではと思いました。
−外に出てみて初めて実感するという、生の体験をしたわけですね。
今現在の絵画、創作における技術への考えは当時と若干異なりますが、 創造を支えて、より強固にするためのセキュリティのようなものとして、独自の技術を作品に付加するべきだと強く思った新人賞でした。
−2018年には初の個展を開催されたようですが、実際に来場した人から感想などはもらいましたか?
個展は作品4点のみで、絵画などあまり展示しないような場所でやってしまったため、見てくれた方も何人かいましたが、あまり声などは掛けられずでした。ほとんど大失敗だったかと思います。
−なるほど、作品をより見てもらうためには場所選びも大切だと感じた初個展だったんですね。場所柄的にも、ポップな印象の展示が多いイメージがあります。
展示期間最終日の日には、僕のブースの前で、ほかのイラストレーターさんが似顔絵を制作し始めました。結果的に似顔絵の方に来場者が流れ、ただでさえ少なかった来場者が全く来なくなり、賃料がもったいなくて早めに切り上げました。苦い思い出です。
自分の内側を惜しげもなく表現し、どんどん外へと出していくことで小さなトライアンドエラーを積み重ね、さらなる表現方法や売り込み方を模索している様子が垣間見える。そんな模索も、苦悩として終わらせるだけでなく、自然と楽しみへと昇華できる力を兼ね備えているのかもしれない。
日本を飛び出し、活動の幅を海外へ。
−2021年から活動の範囲を海外に広げていますが、最初にイタリアのアートエキシビションに参加した時の経緯を教えてください。
イタリアのギャラリーとのつながりは、Instagramのアカウントを通じて連絡をもらったことが始まりです。いいチャンスだと捉えて参加を決意しました。なかなか制作が進まない日々が続いていたタイミングでそのお話をいただき、いい起爆剤になるのではとも思いました。
−海外の販売サイトを通じて作品の販売も行っているようですが、こちらも海外に向けてという想いからでしょうか。
これも、自分自身の刺激になればという想いが強いですね。実際に購入希望のご連絡もいただくのですが、作品の額を聞いて、足が遠のく人が多く、作品販売の難しさを痛感しています。その中で、作品のサイズや素材の工夫をするなど、どうやったら見た人が手に取りやすく、作品としても充実したものが、自分らしく作れるか模索をしながら、現在も作品を作っています。
−購入希望の問い合わせは日本と海外どちらが多いですか?
これは、圧倒的に海外が多いです。日本でのギャラリーへは、現在アクセスを少しずつ試みています。自分の場合、同時並行に複数のアクションができず、作品制作と作品の売り込みがなかなか両立できていないということもあり、現時点では、最初に売り込んだ海外のお客様からお声掛けをいただくことが多いです。
−最後に、今後の目標やどんな活動を行っていきたいかを教えてください。
作家としての活動としては、まずとにかくいい作品をつくりたいです。具体的には小さいけど、表現として動的なもの。素材や質感にこだわり、 絵画に対する「感動」の原点である抽象やシュルレアリスムの方向性を、いかに少ないスペースで独自の表現として作れるかを模索しています。今ようやく形にできてきていることもあり、 最大の関心事です。また、制作状況にまつわるものとしては、今年はすでに海外の公募展用の作品や、先述の実験的な小さめの作品などの制作に着手しています。 コロナの期間中はなかなか打開策が見出せず、制作も思うように進まない苦しい時期だったので、今年は、あと数点制作する事が直近の目標として、新たな試みなどとうまく調和させながら作品を稼ぎたいです。
Profile
名前:華山直己
出身地・活動地:神奈川県
SNS:Instagram (ご依頼はInstagramのメッセージから)
使用画材:主にアクリル絵具、キャンバス、パネル、メディウム画材、溶剤
経歴
2014年
3月 東京ビジュアルアーツ特殊メイク学科特殊造型専攻卒業
4月 会社勤めの傍ら独学で絵画制作スタート
2016年
12月 東京で開催された公募展「秀彩展」に4点出品し全てが選出され展示へ
そのうちの1点が新人賞を受賞( ※当時の作家名はNova Lotty)
2017年
華山直己に改名
2018年
5月 東京・原宿のデザインフェスタギャラリーにて初の個展「華山直己展 Half Blood」を開催
9月 東京で開催された一般公開展「純展」で作品「GABA」が入選
2021年
彼の絵画「金曜₋光る呼吸」(F30)が群馬県立群馬県立近代美術館で開催された「群馬青年ビエンナーレ」に入選(展示期間7月17日〜8月22日)
イタリアのデジタルアートギャラリー「MADSギャラリー」にて開催のアートエキシビション「ComingOut」に参加
2022年
10月 イタリアのMADSギャラリーにて開催 の「GUARDIANS OF DREAMS」に参加
12月 MADSギャラリー主催のエキシビション「BRAIN CAKE」に参加(スペイン・バルセロナにある「ラ・ペドレラ」にて開催)
上記の展示のために制作した新作「Nuron」(サイズ652㎜×530mm)を発表
2023年
3月 スペイン・マドリードにあるVanGogh Art Galleryにて開催の[INTERNATIONAL CONTEMPORARY ART FAIR(UN) FAIR MILANO]に作品を出品・販売中
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