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Artist Notes

〈インタビュー〉ポップでロックなビビッドアートを作り出す林谷隆志さん – アートと雇用を考える

カラフルな色彩に細やかな描き込み。「ポップでロックなビビッドアート」と称してデジタルアートを発表している林谷さん。アーティストがいかにアートだけで生活していくかを考え、日々活動している。日本のアート界全体の問題とも思えるアートと雇用のあり方。林谷さんも当事者だという障がい者のアート雇用にも焦点を当てたロングインタビュー。

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「憧れ」を胸に、自分の力で突き進む

−まず、創作活動をはじめたきっかけについてですが、絵を描き始めたのはいつ頃からですか?

絵を描くということに関しては、物心つくかつかないかのころ、3歳くらいからですね。親から買ってもらったらくがき帳に、当時好きだったヒーローとかを描いていました。すぐにらくがき帳がなくなるので、親から止められたのを覚えています(笑)

−幼少期からお好きだったんですね!

生まれたときから「絵を描く」ということが自然とありましたね。

−そこから「作家」を意識したのはいつ頃ですか?

本格的に「外に出そう」と意識して描きはじめたのは16歳のころです。きっかけは、家族とたしか…国立西洋美術館だったと思うんですが、実物のアート作品を鑑賞したことです。その時観たのは、西洋画だったと思います。「この絵がすごい!」というよりは、その美術館で作品が展示されているオーラだったり威厳だったり、そういうものに魅かれました。そして「自分も画家として活躍したい」と思ったのが今の活動のはじまりですね。

−美術館の雰囲気が一番心を動かした部分だったのですね。観たものが西洋画だった影響と言いますか、今の作風になる前に写実的なものを描かれていたことはありますか?

はい、描き始めた当初は写実的なものを描いていました。美術館で鑑賞したあと、スケッチブックを買って、手持ちのクレヨンで描いた最初の作品は、海の前でピアノを弾いている男性の絵でした。それがなんだかきれいに決まったんですよね。そこから、油彩、カラーペン、色鉛筆などの画法を経て、今のデジタルアートの技法にたどり着きました。デジタルになってからはもう15年以上経ちます。

−作家になるぞ!と決心してからはわりとスムーズに来られている印象ですが、元々アートに打ち込みやすい環境だったのでしょうか?

いえ、実は親からは反対されていて。美大に行きたい!って思った時期もあったんですけど、「絵なんて仕事にならないでしょ」と言われて結局行かせてもらえませんでした。当時、興味があったのが画家か警察官だったので、警察官になりました。

−まさかそんな経緯が…!反対されてしまっていたんですね。

親にはあまり歓迎されていませんでしたね。親は頼れなかったので、自分で働いたお金で個展をやろうと19歳の時に決めました。22歳の時にクレヨン画ではじめての個展を開いたんですが、そんな感じで自分のお金で進めていきましたね。

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障がい者アートグループとの出会い

−障がい者アートグループ『COLORS』に所属されていたようですが、どのようなきっかけからですか?

管理企業である株式会社エスプール様がお声をかけてくださったのがはじまりです。ちょうどその1年前に当時勤めていたWebライターの仕事を辞め、フリーでアート活動を何とか頑張っていた時でした。そのタイミングで、株式会社エスプール様から「新たにアートに関する事業をやりたい」という話があり、当時入っていたパラリンアート団体の関係者を通じて紹介していただきました。

−すごいタイミングですね!出会うべくして出会ったというか。

アーティストのお仕事という面でも嬉しかったですが、自身がCOLORS最初のアーティストであり、これから開拓していくという立場で、そこにも嬉しさがありましたね。2021年4月から所属する中で、いろいろ経験させていただき、「もっと成長したい」と刺激を求めて今年の1月に卒業しました。

「ポップでロックなビビッドアート」

−鮮やかで大胆な色彩に、細やかな変化、迫力ある絵だけどどこか繊細さも感じる作品が多く感じます。

元々淡い色よりは、はっきりした原色を使うことの方が好きで、専門用語でいうと「ビビッドトーン」と呼ばれる色合いを使うことが多いですね。キャッチコピーとして「ポップでロックなビビッドアート」と呼んでいます。また、僕は「HSP」という、繊細な気質が強く出ていると自覚していて、その気質を「逆に利用してやろう」と、細かいタッチの作品を描くことが多くあります。はっきりした色合いなのでインパクトの強さもありながら、繊細なタッチによって、二面性を出せているのかもしれません。

−黒とカラーのコントラストが印象的ですね。

これは僕の感覚ですが「ほかの色が映えやすい」と思い、黒を使用しています。鮮やかな色をより鮮やかに見せるための演出です。

−よくみるとものすごく細かい模様が入っている作品がたくさんありますね!これがウリのひとつであるタッチですね。

空いてるところがあると埋めたくなっちゃいます。見るだけで情報過多になりそうなものも稀にあります。パーツひとつひとつを認識してもらうというよりは、「なんかぐちゃぐちゃしている」「いっぱいあるなあ」と感じもらえたら。僕の脳内もそんな感じですから。(笑)

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ポートフォリオサイトの立ち上げとビジネスについての想い

ポートフォリオサイトも作られていますね!一番お気に入りの作品はどれでしょうか?

団体の所属ではなくなったことで、売り込みも自分でやるので企業様向けにポートフォリオサイトも持っています。一つ選ぶとなると迷いますがやっぱり「with one wing」です。作品の持つエピソードがほかのものと違うので。

−どういった背景のある絵なのでしょうか?

21歳のころ、社会人1年目で弟のように思っていた同期が自らという形で亡くなってしまったんです。全く予兆がありませんでしたし、当時はものすごく悲しい思いをしました。僕の中で「自分が”良心”という翼を与えてしまったがゆえに、彼は罪悪感と向き合えなくなってしまったのかもしれない」という気持ちがあるんです。

−そんな悲しい背景が…。

その彼への思いや存在を忘れないように「片方の翼で=with one wing」という強いストーリーがこの作品にはあるので、自分にとって特別な存在の作品ですね。

−掲載されている作品はテイストの違うものを意識的に揃えていますか?ガラリと印象の違うものもあるので。

「こんな絵を描きますよ」ということがわかりやすく提示できたらと思い、自分の得意な「作風」に焦点をあてたもの、「色」に焦点をあてたもの、「タッチの細かさ」に焦点をあてたものなどを掲載しています。こういうカラフルな絵を探している企業様と出会えたら嬉しいですね。

−ポートフォリオということでアートを取り入れたい企業に向けていると思うのですが、これまでのアートに関するお仕事で特に印象に残っているものはありますか?

これまでもたくさんのお仕事をいただいてきました。その中でも印象的なのが帝国ホテル様のディナーイベントでの作品採用です。先方のシェフの方たちと「どこに作品を使うか」というところから考えていきました。最終的にイベントで使用するランタンのデザインになったのですが、自他ともにその後の影響という点で一番大きく感じています。

−企業案件といえば、障害者のアート雇用についても積極的に活動されているかと思います。現状や考えなど伺いたいのですが…。

すべてを話したいのですが大長編になってしまうので…(笑)、以前雇用を受けていた『COLORS』で特に感じていた問題は「ビジネスとアートのジレンマ」です。ビジネス上のルールとしては納期を守るとか、相手企業の要望に応えていくとかになりますが、そこだけに傾いてしまうとアート本来の良さやエネルギーが失われてしまうんですね。

−売り手側の気持ちと買い手側の要望は、必ずしも一致する部分ではない場合がありますしね。

アーティストのわがままに傾いては仕事が成り立たない。仕事を続けるにはこのバランスを僕らアーティスト側で器用に保たないといけないんです。僕自身も発達障害の当事者なのですが、それって高度なコミュニケーションスキルを求められるんですよ。僕は何とかそれまでの経験で乗り切れましたが、まだまだ多くの障がい者アーティストにとっては敷居が高いというのが正直なところなのです。

−売り手としての擦り合わせの難しさは、多かれ少なかれ誰もが感じるところかと思いますが、その人が持つ特性によってはさらに難しく感じることもあるのですね。

コミュニケーションという敷居を低くして多くの障がいを持つ方にアート活動をしてほしい思いがあります。今はどんな雇用の形になるかわかりませんが、僕が活動し続けて、その「敷居を低くする」ことに貢献していければと思っています。

−声を上げられる人が積極的に活動することで、同じ境遇の方たちの希望になれたらすてきですね。今後、ご自身の作品を「こんなビジネスに使ってほしい!」みたいな目標はありますか?

一番は、やはり作品として大きな舞台に展示していただくことです。駅の構内や公共の施設、例えば渋谷駅の岡本太郎の絵みたいに、長く存在する作品としてそこにあり続けられたら嬉しいです。大きな舞台といえば、オリンピックのような世界単位でのイベントの中で、自分の作品が参加できるような機会があれば光栄ですね。あとは、シンプルに住宅のインテリアとして、日常的に絵を楽しんでもらうっていうのもいいですね。

−林谷さんの作風はとてもインパクトがあるのでCDのジャケットとかにも合いそうですよね。今だと配信用のジャケットになるんでしょうか。

楽曲のアイコンとか、アーティストさんとのコラボとかもやってみたいですね!楽曲に限らず、雑誌やパッケージなどもお声がけいただけたらな、と思います。

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NFTにも積極的に参入

NFTサイトは2023年よりお持ちだそうですが、2024年2月の時点ですでに350作品以上出品されているんですね。

ペースはまちまちですが、基本的には1日1作できればいいかなくらいです。はじめた当初、多いときは1週間で50作作った時もありました。今は、出品後に売れ行きを見て価格を調整したり、ご覧になる方が見やすいようにサイトの調整をしたりという部分にも注力しています。けっこう数が多いので大変ですが、何とかやっています。

−注目ポイントはどういったところでしょうか。

「色鮮やか」「繊細」このあたりはショップでも変わらずあります。企業などの制約がなく自分で方針を決めるので、結構自由に作ってます。NFT独自で意識していることと言えば、「より身近に感じてもらえるように」というポイントですね。作品にもよりますが、特に価格が安いものに関しては「トレカを集める感覚」くらいに身近に感じてもらえるような工夫をしているのが特徴です。

−おすすめ作品やお気に入り作品をぜひ教えてください。

3つの作品を紹介します。まずは、『SENSAI・GOODDAY』という作品です。

−鮮やかな色彩と繊細なタッチがふんだんに使われていますね。これぞまさに「林谷作品」!

今、僕が一番描きたい作風というか、持っている持ち味がギュッと詰まった作品になっていると思います。次は『My Pet』というペットをモチーフとした作品です。

−猫のシルエットがかわいいです!じっくり見ているといろいろなものが浮かび上がってくる気がして、何度も見返したくなりますね。

僕の心の中にいる「かわいいペット」で、ちょっとキモかわいいキャラクターです。そして最後は『ISM.』です。

−色が絞られているからか、ロゴマークっぽさもあってこれまでの作品とはまた一味違う作品ですね。

細かさだけに焦点を絞って描いた作品です。これの別バージョンをInstagramに投稿したときに、僕が好きなアーティスト「Jonone」さんがいいね!してくださって、そうした意味でも印象的な作品です。

−350作品中の3作品でこれだけの見応え。林谷さんのNFTサイト「Rainbow Cross Section -林谷隆志 NFTArt Shop-」本当に楽しいので、ぜひ覗いてみてほしいです。最後になりますが、今後の活動の目標について教えてください。

そうですね、どんな人でも絵を見ただけで「これ林谷のだろう」「It’s HAYASHITANI,Yey」と分かってもらえるくらい、認知してもらえるようなアーティストになりたいですね。

−作品だけでパッと名前や顔が思い浮かぶのって最高ですよね。

ヒマワリを見ただけでゴッホと分かるような、キュビズム作品を見てピカソかもと思われるような、そんな感覚で「カラフル=林谷」みたいな。そのためにはもっと作品を詰めていくことが必要だと思うので、さらに感性を磨いていきたいです。

−インタビューを通して、作品をもっとビジネスにも活かしていきたいとお考えなのかな、とも感じました。

一番大事にしたいのは自分の作風なので、自分の求めている作風やこだわりを必要としてくれるような関係をビジネスでも築いていけたら理想だと思っています。ご縁がありましたら嬉しい限りです。

−林谷さんの作品を必要としてくれる方、ぜひご連絡お待ちしております!ビジネスに使用する場合、出力することも多いと思うのですが、林谷さんの出力作品を観られる機会ってあったりしますか?

2024年4月2日から7日までの間、阿佐ヶ谷にある「BAR ROCK INDIA」さんで開催される『ワールドノウズ 作品展』(※)に参加予定です。複製原画も販売予定なので、ぜひたくさんの方に来ていただきたいです。

※詳しい展示についての情報はプロフィール末尾に掲載


名前:林谷 隆志(はやしたに たかし)
出身地:神奈川県横浜市
活動地:東京都、神奈川県
作品ジャンル:デジタルアート(カラフルなものが中心)
SNS:X / Instagram
NFT:Rainbow Cross Section -林谷隆志 NFTArt Shop-
サイト:ポートフォリオ / オープンバッジ
使用画材:デジタル(ibispaint X / Photoshop)

経歴
活動歴28年目。16歳から本格的な制作を始める。警察官やWebライターなど他の仕事をしながら、首都圏を中心に個展を開催。2021年4月から2024年1月までの間、障がい者アートグループ『COLORS』所属(株式会社エスプールプラスの事業)のアーティストとして活動。鮮やかな色合い、細かいタッチ、動き回るような躍動感ある絵が特徴。

所持資格:色彩検定2級、ビジネス著作権検定初級、メンタル心理カウンセラー

主な採用歴
帝国ホテル株式会社:ディナーイベントにて作品採用
鹿島建設株式会社:Web背景に作品使用
NB建設株式会社:建設現場の仮囲いに作品使用
三井不動産株式会社:同社主催の車いすラグビー世界大会のボランティアTシャツのデザインに作品使用
ローランド株式会社:株主通信の表紙に作品使用

展示情報
『ワールドノウズ 作品展』
会期:2024.4.2〜4.7
展示会:11:00 〜 18:30
バータイム:19:30〜閉店(バータイムも観賞可能です。)
場所:BAR ROCK INDIA
〒166-0001 東京都杉並区阿佐谷北2丁目13 美波ビルBF1
JR総武線阿佐ヶ谷駅から徒歩5分程度

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